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まだまだ続く米国「女性との戦い」

 

 人工妊娠中絶や避妊は、宗教的・道徳的な観点からも複雑な問題。長く論争の的となってきたが、今年、中絶や避妊に制約を加えようとする州の動きが目立っている。新しいところでは、「中絶のない州」を目指すミシシッピーでの新法が見られる。

 連邦最高裁が、人工妊娠中絶を合法とする判決を下したのが1973年。それまでは多くの州で母体が危険、レイプ、近親相姦を除いて妊娠中絶は不法であった。合法になったものの、擁護派と反対派は常に対立し多くの論議が展開されてきた。
 
 ミシシッピー州は米国でも最も中絶率が低い。現在同州では、ジャクソン婦人科病院がただ一つの中絶病院。同病院は17年間女性の「性と生殖の権利」を保護し、中絶、避妊サービスを実施。過去18か月で3000件の中絶手術を行なってきたという。

 新中絶法では、手術をする産婦人科医は、不測の事態に備え同地域の病院に患者を収容できるように、他病院から承認された特権をもたなければならない。ジャクソン婦人科病院の3人の医師は、その特権を申請はしているが、宗教的観点から中絶に批判的な病院もあり、まだどの病院からも承認の返事をもらっていない状態。よって、もし他病院の承認が得られなければジャクソン婦人科病院は閉鎖となり、中絶希望者は他州へ行くしかない。

 ジャクソン婦人科病院は、反中絶活動家のターゲットになってきた。テキサス州のダラスを本拠とする団体「オペレーション・セイブ・アメリカ」は同病院前で、聖書を読み賛美歌を歌うなど抗議活動をしてきた。

 共和党のフィル・ブライアント州知事は「中絶のない州」にしたいとつねづね言ってきた。テイト・リーブズ副州知事は、州ウエブサイトで新中絶法の目的は母体を保護するだけでなく、ミシシッピーでの唯一の中絶病院を閉鎖することだと話している。

 一方、新中絶法反対派は、「女性の中絶を求める権利を侵害する」と州相手に訴訟を起こした。結局7月1日の施行予定日に、地方裁判所判事は新法施行に一時ストップをかけた。続いて11日、そのストップを延長するという決定を出した。よって、現在ジャクソン婦人科病院は引き続きオープンしているが、今後は判事の決定次第となる。

 ミシシッピー州は中絶フリーを掲げているが、財政赤字に悩む州の中には避妊・中絶への補助カットを進める州も多い。今年だけでも、避妊・中絶に関する法案が全米で約1000提案されている。

 アリゾナ州では、5月に米国家族計画連盟(PPFA)への公的資金カットが決められた。PPFAは820の診療所を全米にもち、避妊教育などの他に中絶サービスもある。このアリゾナでの決定に、同団体は乳がん検診などのサービスも提供していると反論。補助カットで、低所得層の女性の健康が損なわれると警告する。

 このような避妊・中絶を制約しようという動きは、テキサスなど多州にも及んでいる。フェミニストグループは、女性が長年勝ち得た権利を剥奪しようとする動きを、女性へ挑まれた戦いととらえ「Stop The War on Women(女性との戦いをやめろ)」と抗議の声を強めている。

 さらに、保守派の中には50年前に戻ろうと避妊反対を叫ぶ動きさえある。大統領選共和党候補争いでミット・ロムニー氏と争い4月にレースから撤退した保守右派のリック・サントラム氏は、避妊に絶対反対の姿勢をとる。今年1月にABCニュースで、「避妊は宗教上の観点から認められず、州が避妊を法律で禁止すべき」とまで発言した。

 カトリック系教会では避妊は御法度とはいうものの、最近のギャラップ世論調査では、89%の米国人が、82%のカトリック教徒が、避妊は倫理的に受け入れられると回答している。避妊は、離婚やギャンブルよりも倫理的に受け入れられるという。

 また、非営利団体のガットマチャー協会の2010年の調査では、15才から44才までセックス経験のある女性では、99%が少なくとも一つの避妊方法を用いたことがあり、62%が常に避妊をしているという。

 このように避妊は一般市民には当たり前のことなのだが、オバマ政権の医療保険制度改革法が現実味をおびてくるに従って避妊論議も活発となっている。同法の保健社会福祉項目では、医療保険を従業員に提供している雇用主に、避妊費用が保険適用されるよう義務づけているからだ。食品医薬品局認可のコンドーム、リングなどの避妊具やピルがすべて無料保険適用対象となる。

 連邦最高裁が6月末、医療保険制度改革法に合憲判決を出したが、この動きはおさまるどころか、ジョージア州やイリノイ州などの宗教団体はその週末に抗議デモ、集会を行なっている。避妊保険適用に国が立ち入ることは、反避妊の宗教信念を侵害し憲法に反するというのが主張だ。

 中絶や避妊は個人の問題か、宗教上の問題か、また政府が介入する問題か。一つに片付けることはできないだろう。家族計画は個人の問題とは言えるが、避妊に失敗し生まれた子供のつけはどこへ行くのか。親が育児放棄すれば、州政府が何らかの形で面倒を見ざるを得ないだろう。

 米国人は「戦い」という言葉を好んで使うようだが、連邦・州政府、宗教団体、女性グループの間で、女性の「性と生殖に関する権利」をめぐっての「戦い」はまだまだ続きそうである。

マクレーン 末子

ブロッガー。2000年に渡米、現在アリゾナ州に在住・・・続きを読む

4 responses to “まだまだ続く米国「女性との戦い」”

  1. やすひろ

    御無沙汰しております。
    日本は反消費増税、反原発、反いじめと、意外と分かりやすい問題で大騒ぎになっています。後は総選挙で、果たして旧政治家の一掃なるかどうかだけですね。しかし、アメリカはややこしいですね。反中絶、反避妊の根拠は何なのでしょうか。少なくとも、新約聖書や創世記では一言も触れられていない問題なのですが。なぜ、宗教が絡むのでしょうか。それとも、いまだアダムとイヴの「たとえ」が紐解かれていないのでしょうか。

  2. masa

    私もご無沙汰しておりました。
    現在8月7日現在までは、表向きメディアはオリンピック一色で政治や原発、海外情勢などを小さく扱いまもなく始まる高校野球でその役割もピークに達しようかと思う状況です。
    あくまでも国民には娯楽という一面で肝心の生活や国の行方を目晦まししております。
    さて、今回もアメリカでは避けて通れない問題を取り上げておりますね。
    面白いのは(失礼!)、個人の自由と叫ぶアメリカで実態は宗教と既得権益者や特定の者たちの自由でしかないことが、はたから見ていると良くわかります。
    以前にも書いたのですが、いかに権利を与えられているかのように錯覚させて個人の自由を奪っているか。中絶避妊に関しても、避妊具や避妊薬の保健適用や推進者のなかには既得権益者の影が見え隠れするような胡散臭さを感じますし、反対派にはどこか神の名の元に個人の自由や表現を押さえ込もうとする中世以前からの民衆を教会の手でコントロールしようとする意思も感じられるし、宗教を政治権力の道具として使っている感じかな。勿論宗教とは世界中そういう一面は免れないのだろうが。

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